泣き虫ヒナちゃん
泣き虫ヒナちゃん。
この呼び名に聞き覚えがある人はどれだけいるのだろう。
当時Jr.黄金期と呼ばれる滝翼、嵐、関ジャニ∞、生田斗真、山下智久といった今をときめく彼らがJr.だった頃の村上信五を評する言葉だ。
当時を知らない人からすれば、あれだけバラエティで身を削ってまで笑いを取り、場を収める彼をそうは思えないだろう。
でも、確かにそんな時代があったのだ。
今から約21年前村上信五は関西ジャニーズJr.として芸能界に飛び込んだ。そこには横山裕、渋谷すばるという今なお彼の戦友である2人がいた。
東京に出だした頃、村上は横山、渋谷の後ろをついて歩くまるで女の子のようなかわいい子供だった。事実、先輩に女の子に間違われたことまである。
面白いことも言えず、2人の発言をただただなぞるしかなかった。
そんな彼にとって横山と渋谷はいつも自分の前を進む存在だった。また、2人にとって村上は守るべき存在だったように思う。
「ヨコには演技の仕事があったしすばるには歌があった。俺には何もなかった」
そんな彼が見つけたのがツッコミというポジションだった。
やっと収まる場所を見つけた彼は横山と渋谷と共にJr.の一時代を築き上げた。
順風満帆に思われたJr.時代は思ったよりも早く冬の時代を迎える。同期がデビューし、後輩の方がテレビに出る。そんな現実を目の当たりにする。
それでも、村上は細々とではあるが東京で仕事を続けていた。ところが、ついに途絶えてしまう。
もう家賃だけが無駄になる。そんな現実を突きつけられた彼ちは大阪に帰るしか残された道はなかった。
大阪に帰ると、そこには仲間がいた。後輩がいた。横山、渋谷が自分と同じように打ちひしがれて戻ってきていた。
彼はそこで大阪の仲間とともに舞台を作り上げることになる。
伝説の舞台「Another 」
ラストチャンスだ。
それでも、客席を埋めるのにもまた苦労した。たった千人のキャパが埋まらない。毎日毎日スタッフと話し合った。松竹座で寝泊まりして日々を過ごした。
それからほどなくして、彼は大切な番組と出会う。
「Oh ソレ ミ〜ヨ!」
芸能界の大先輩である西川ヘレンさん、ハイヒールモモコさんとの出会いであった。
彼はそこで今も続く大切な縁を繋ぐことになる。
芸能界のイロハ、人間として大切なこと、一般常識。ありとあらゆることを吸収し、経験し、着実に今につながる土台を作り上げた。
その姿はかつて横山と渋谷の後ろで困った顔をしていた村上の印象を完全に払拭するものだった。
2004年Jr.生活がついに終焉を告げる。関ジャニ∞デビュー。
それは彼らが夢に見たまさしく夢舞台だった。
だが、そこからの道はまた険しく長いものだった。事務所からはJr.の頃と同じ扱いを受ける。事務所の集まりには呼ばれない。大阪に囚われた曲しか出せない。
波乱万丈なグループである。
一筋縄ではもちろんいかなかったし、ぶつかり合うことだって少なくなかった。
個性の集まりである関ジャニ∞をいつもまとめて話を聞いて救ってきたのは村上信五だった。
エイトのためならなんでもする。
そう言った彼は紛れもなく強くなった彼だ。自分の居場所をきちんと見つけたのだろう。
エイトのおかん。
そう呼ばれる彼にはもう泣き虫ヒナちゃんの片鱗はなかった。
それでもきっと横山と渋谷には感じてしまうのではないか。当時自分たちが護ってきた泣き虫ヒナちゃんという存在を。そして今も心の奥底にある甘えたい、ずっと年下でいたいという彼を。
だから今でも彼がはしゃぐのが苦手なのではないか。弱い村上信五を知っているから。無理してると思ってしまうから。
横山は村上が彼に何かを頼むと「甘えんなよ」と言うことが多い。甘える。そう。彼の本来の姿である。横山は今でも当時のヒナちゃんを重ねているのだろう。ここ最近の絡みを見てより一層思うようになった。
一方の渋谷はお互いが支え合う存在に変わっていったのではないか。村上は今でも渋谷を尊敬している。そして渋谷も今の村上に敬意を払っている。互いが支え、分かち合う。そんな関係に変わったのだと思う。
年下組にとって村上信五は先輩であり、お兄ちゃんであり、お母さんみたいな人だ。何かあれば庇い、守り、時には叱り、導いてくれる。そんな人だと思う。
彼はずっと強くなろうとしていた。弱い自分を止めようとしていた。
今や大御所キラー、おじさまおばさまキラーそして先輩や後輩とも積極的に連絡を取り関係を繋げる。かれはかつて自分にしてもらったことを後輩に還元しようとしているのではないか。
私は今でも時々思う。弱い村上信五でもいいんだよ。誰かに助けを求めてもいいんだよ。あの頃の自分をそろそろ許してあげて、またヨコとすばるくんに頼って泣いてそしてまた走り出せばいいんだよ。
決して今の村上信五を無理しているとは思わない。彼が選んだ道である。彼が信じた道である。
いつだって前を向くようになった彼に本当に時々でいいから過去の自分を見てあげて欲しい。それだけだ。
記憶に新しいレコメンでの発言がある。
「肩壊れるくらい種撒いた。もう誰も水やってくれへんし、やっと花咲いたおもたら踏みつぶされるし」
これが断片的だとしても当時報われなかった関ジャニ∞の本音の一部だと思う。
強くなったあなたは今誰よりも大きな大輪を咲かせている。それを誇りに思う。